LT57_FRESH MATTER

Creative Buying

今だけではなく100年先まで 人も環境もより豊かに美しく 実り続けるために継続していくこと

甘さだけではない安全で豊かな味わい

るんだ」 甘くて安い果実がいまだ主流の時代、理解を 得るための苦労は絶えないが、想いは変わらない。 「安全で安心なものを作っても、酸っぱいって 消費者に敬遠されがち。でも、近所の子供たち は喜んで食べてくれる。子供のうちから本物を 知ってほしくて、地元の学校の給食にも働き掛け て、3年前、やっと仕入れてもらえるようになった。 そしたら、近所の子がすぐ気付いたんだ。今日、 給食で石綿さんのキウイが出たよ!って。子供は 五感が鋭いんだ」

そのミカンは甘いだけではない。青い香りが 鼻先をくすぐり、口に入れたとたんに思わず背筋 が伸びるような、みずみずしさと酸っぱさを備え ている。懐かしくも五感を目覚めさせる味。作り 手は石綿敏久さん。ここ神奈川県小田原市に 生まれ育ち、まだ有機農法や無農薬栽培が一 般的ではなかった40年前からミカンやレモンなど の自然農法に取り組んできた。日本で初めてキウ イの無肥料栽培にも成功したスペシャリストだ。 「今はとにかく甘くて安い果物が求められがち だから、品種改良を重ねたり、農薬を使って大 量生産する農園も多いけれど、食べやすさのた めに薬を使うなんて…。もっと安全で安心なもの を食べないと、将来、人も環境も大変なことにな るんじゃないかなって予感があった。だから、無 農薬でキウイやミカンを作ろうと決めたんだ」 とはいえ、自然農法には莫大な労力と時間が かかる。しかも、成功の前例がない時代だ。あ らゆる自然農法を試し、何年も失敗を重ねた。 数年後、「ヘアリーベッチ」というマメ科の牧草 を畑にまくことで空気中の窒素を苗木の根元にた め、それを養分に無農薬無肥料のキウイを実ら せた。当初、実りの少ない栽培を続ける石綿さ んは、地元の人からも変人扱いされたと笑うが、 今ではその技術を継いだキウイ生産者が小田原 だけでも30人近くいるという。 「最初は無肥料では果物は育たないけど、続 けているうちに土が変わる。キウイ畑は無肥料 を続けて25年になるけど、今では害虫も病もほと んどない。ミカン畑も同じ。人間が甘い果物を 求めて品種改良するために、たくさんの肥料を 使うのが原因で病や害虫もわいてくる。それを 消すために今度は農薬を使うって悪循環。本来、 小田原の気候や風土は原種の果物作りに適し ている。適地適作だからこそ無農薬栽培ができ

原種であるほど生命力がある

石綿さんとラッシュとの出会いは約5年前。オー ガニックでフレッシュな果物や野菜を商品に使用 しているラッシュでは、常に良質な原材料を求め て、バイヤーが全国各地の生産者のもとに出向 いて、直接、買い付けをしている。クリエイティ ブバイイングと呼ばれる、この買い付け方法は「美 しさの本質とは何か?」と向き合い続けた結果、 ラッシュが編み出した方策だ。お肌にとって栄養 価が高い良質な原材料を求めると同時に、環境 全体にも配慮すべき。フェアトレードや地産地消、 また被災地支援などを実行すること。原材料の 仕入れ先である生産者とも想いを通わせ、大切 に付き合うことが必要だという答えにたどりついた。 ラッシュのバイヤーは、石綿さんのキウイに出 会った時、「シンプルに感動した」と。普通のキ ウイとも有機JASのキウイとも違う。そのぎっしりと した果実味に細胞のたくましさを感じた。実際、 石綿さんが約10年前に行った、ある実験の興味 深い結果がある。その実験とは、農薬を使用し たキウイと減農薬キウイ、そして石綿さんの無農 薬キウイをそれぞれビン詰めにして長期保存して みるというもの。1ヶ月後、農薬キウイは原型をと

小田原の生産農家の石綿敏久さん。仲間と育てる有機JASミカンの畑で。 未来につながる子供たちの食育への想いも深い。

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