LT57_FRESH MATTER

伐採者が切り捨てていった木の撤去作業

アマゾンの奥深くにある6,000ヘクタールもの広大 な森。そこまでは、14時間で着くこともあれば、 丸2日かかることもある。流れの速いアマゾン川 を平底のボートで渡るには、鷹のような目と、鋼 はがね のように頑丈な足腰がなくてはならない。船頭を 務めるのは70歳のビルヒージョだ。長年の経験 を頼りに、雨で流されてきた丸太を器用に避け ながら、船を進めていく。今回は激しい雨に見 舞われたのが、むしろ幸運だった。川の洪水で 水浸しになったジャングルを抜けて、近道ができ るからだ。ラッシュバイヤーのアニエス、パウロ、 そして私の3人は、ボートが道なき道ならぬ、川 なき川をかき分けながら進むなか、必死でへり にしがみついた。普段の生活とはかけ離れた 場所にいることを実感する。森はどんどん深くな る。頭上から垂れ下がるツタや、水に沈んだ切 り株にぶつかれば、転覆しかねない。

大げさなようだが、本当に危険だ。前回は、ビ ルヒージョ、そしてペルーにおける私たちのパー トナーであるリンバーと、彼の父親ホルヘが、 船から投げ出された。

ルといえば、ニュージーランドのオークランド市と ほぼ同じ面積だ。だが、その場所はすでに違 法伐採者が侵入していた。最初にここを訪れた 時のことを、リンバーが教えてくれた。「まるで映 画『アバター』の世界を見ているようだった。 彼らは巨大な機械を使って、貴重な木だけ切り 出し、あとはお構いなしと言わんばかりに、他の 木を蹴散らしていた。ローズウッドの木も倒され、 傷つけられていたんだ」。ラッシュはパウロとリン バーと共に、すぐに計画を練った。何度も交渉 を重ねた結果、リンバーはラッシュがこの土地の 伐採権を取得できることを突き止めた。現地の 人間ならではの知識を駆使し、彼はラッシュのた めに森を確保してくれた。ラッシュは違法伐採者 の手からただちに土地を取り上げ、森林破壊に 歯止めをかけた。現在はこの森を保護区に指 定するため、申請を進めている。

滑りやすい川のほとりの土手をよじ登り、辺りを 見渡すと、ペルーのチームがどれだけ身を粉に して働いてくれているかすぐに分かった。彼ら は2階建ての「マザーハウス」を建てて、オイ ル蒸留工場にし、自分たちもそこに住み込んで いる。建物の建材は、違法伐採者らが切り捨 てていった、売り物にならない木材だ。蒸留器 から立ち上る湯気が、太陽の光にたなびいてい る。蒸留器を温めているロケットストーブは、古 い樽から作られていて、少ない木でも効率良く 燃やすことができる。辺りには、ローズウッドの香 りが漂っている。信じられないほど素晴らしい光 景だ。その晩は蚊帳の中で眠り、翌日はリンバー とホルヘ、そしてチームメンバー数人と一緒に ローズウッドの木を見に行った。ジャングルに入っ て30メートルも行かないうちに、私たちはその生 命力の強さを肌で感じた。バクの足跡や南米の

だが幸いなことに、今回は倒木に邪魔されること もなく、順調に森にたどり着くことができた。

目の前に広がる光景に、息を飲む。

1年ほど前のことだ。パウロは、ラッシュが環境 に優しいローズウッドオイルを探していることをリ ンバーに話していた。そこでリンバーは、木の スペシャリストのホルヘにコンタクトを取り、どこ かにローズウッドの木がないか相談した。まもな くホルヘは、アマゾンの熱帯雨林の奥深くに、 ぴったりの森を見つけてきた。60平方キロメート

18

19

Powered by